学会デビュー
研修医になると、多くの場合は1年目に
何か学術的なデータを集めてプレゼンテーションする
「学会デビュー」があります。
私の場合、もの好きなことに学生時代に生化学教室に身を寄せて研究していたので
学会デビューは医学部5年生の時でした。
生まれて初めて買ったスーツに身を包んで
若い研究者に混ざって、ビタミンA代謝酵素に関する内容を発表しました。
もう、ドキドキでした。
夜は生化学教室の先生方が、大阪ミナミに連れ出して下さいました。
初めての学会発表、発表後の打ち上げ、大阪ミナミの熱気、ジャズバー。
何だか自分も研究者になったような、大人になったような
高揚した気分でした。
美味しいお酒を傾けて、黒人女性の歌う本場さながらのジャズに聞き入っていたら、
いつもボサボサの頭に、薬品のシミだらけの白衣を着ている先生が
ぼそりとつぶやきしました。
「ジャズってのは、なんでこうラブソングばっかりなんやろね」。
私にはまるでわからない原語の歌詞を、全部理解していらしたのです。
ああ、こういう人が本物なんだな、と思い知った瞬間でした。
平成6年9月、日本生化学会のお話でした。