銀杏の思い出
20余年前、研修医だった時の話です。
当時の私は、医者らしいことは何もできませんでしたが
とにかく患者さんの傍にいました。
その時、受け持ったのは婦人科がんの病棟で
暇さえあれば、患者さんのベッドサイドにいました。
浮腫んだ足をマッサージして「気持ちいい」と言って頂いてはちょっと得意になり、
お腹の手当てをしながら、ご家族の話や好きな食べ物の話、ペットの話や旅行の話など
他愛のない話をしました。
患者さんと過ごす静かで温かい時間が、好きでした。
今の季節になると、必ず思い出すことがあります。
闘病のため、何か月も病棟から出たことのない患者さんを車椅子に乗せて、
一緒に庭に出ました。
辺り一面の銀杏の葉で、あまりの見事さに2人とも絶句。
「きれいですねー」
「・・・ほんと。」
そのくらいしか会話を交わさなかったと思います。
銀杏を見ると、今でもあのひとときを思い出すのです。
あれから20余年。
その患者さんのお名前と、ペットの名前と、好きな食べ物は覚えていますが
なぜか病名は思い出せずにいます。
~~~大学病院の銀杏並木~~~